「「去らん」と「去るらん」の意味の違いがいまいち分からない…」
「古文の問題で「去るらんこと」の意味が理解できず、解けなかった」
「「去らんとす」の使い方が分からなくて、古典の解釈に困っている」
古典文法における助動詞の使い分けは、多くの学習者が悩むポイントです。私も以前は同じように悩んでいました。
文語表現における「去らん」と「去るらん」には、推量や意志、原因推量など、それぞれ異なる意味と用法があります。この記事では、3つのステップで両者の違いを分かりやすく解説していきます。豊富な例文と現代語訳を交えながら、古文特有の表現を丁寧に説明していきます。
【1.「去らん」と「去るらん」の基本的な意味と違い】
古典文法において、「去らん」と「去るらん」は似て非なる表現です。この章では、両者の基本的な違いと使い分けのポイントを解説していきます。
【それぞれの助動詞の基本的な意味】
「去らん」と「去るらん」は、どちらも助動詞「む」が関係する表現です。ただし、その成り立ちと意味には大きな違いがあります。
「去らん」は、動詞「去る」の未然形に助動詞「む」が付いた形です。主に以下の3つの意味で使用されます:
1. 推量:「おそらく去るだろう」
2. 意志:「去ろうと思う」
3. 適当・勧誘:「去ったほうがよい」
一方、「去るらん」は、動詞「去る」の連体形に助動詞「らむ」が付いた形です。主に以下の3つの意味を持ちます:
1. 推量:「去っているだろう」
2. 原因推量:「おそらく去ったからだろう」
3. 伝聞:「去ったそうだ」
【文法的な特徴と活用】
「去らん」の活用について詳しく見ていきましょう。
基本形:去らん
未然形:去らむ
連用形:去らむ
終止形:去らん
連体形:去らむ
已然形:去らめ
「去るらん」の活用は以下の通りです:
基本形:去るらん
未然形:去るらむ
連用形:去るらむ
終止形:去るらん
連体形:去るらむ
已然形:去るらめ
活用の違いは、動詞「去る」のどの活用形に助動詞が付くかにあります。「去らん」は未然形に、「去るらん」は連体形に付きます。
【使用される場面や状況の違い】
「去らん」は、話者の意志や判断を直接的に表現する場面で使用されます。例えば:
「今日こそは去らん」(意志)
「彼も近々去らん」(推量)
「そろそろ去らんか」(勧誘)
一方、「去るらん」は、状況から推測したり、伝聞情報を伝えたりする場面で使用されます:
「すでに去るらん」(推量)
「悲しみのあまり去るらん」(原因推量)
「人々の話では去るらん」(伝聞)
使い分けのポイントは、話者の直接的な意志や判断を表現するか(去らん)、状況からの推測や伝聞を表現するか(去るらん)にあります。
また、文末での使われ方にも特徴があります:
「去らん」の例:
– 明日去らん。(意志)
– いずれ去らんと思う。(推量)
「去るらん」の例:
– 既に去るらんかな。(推量)
– さびしさに堪えかねて去るらん。(原因推量)
これらの違いを理解することで、古典テキストの解釈がより正確になります。特に、和歌や物語文学では、この微妙な違いが重要な意味を持つことがあります。
【2.「去らん」の詳しい用法と具体例】
「去らん」という表現は、古典文学で頻繁に登場する重要な助動詞です。文脈によって異なる意味を持つため、正確な解釈が求められます。
【推量の「去らん」】
推量を表す「去らん」は、未来の出来事や不確かな事柄を推測する際に使用されます。
具体例を見てみましょう:
「春の風に誘われて、鳥も遠くへ去らん」
(現代語訳:春風に誘われて、鳥も遠くへ去るだろう)
「やがて花も散り去らん」
(現代語訳:そのうち花も散り去ってしまうだろう)
この用法の特徴は:
– 未来の出来事への予測
– 確定していない事柄への推測
– 話者の主観的な判断
【意志を表す「去らん」】
意志を表す「去らん」は、話者の決意や行動の意図を示します。
代表的な例:
「我もここを去らん」
(現代語訳:私もここを去ろうと思う)
「明日こそは都を去らん」
(現代語訳:明日こそは都を去ろう)
この用法の特徴:
– 一人称(話者自身)の行動に限定
– 強い決意を表現
– 未来の行動に対する意志
【打消の助動詞「ず」との関係】
「去らん」は打消の助動詞「ず」と組み合わさることで、より複雑な意味を形成します。
例文で理解を深めましょう:
「ここを去らずんば」
(現代語訳:ここを去らないならば)
「まだ去らずとも」
(現代語訳:まだ去らなくても)
この組み合わせの特徴:
– 条件表現との結びつき
– 否定的な推量
– 仮定表現での使用
【「去らんとす」の意味と使い方】
「去らんとす」は、意志や決意をより具体的に表現する形式です。
用例を見てみましょう:
「都を去らんとす」
(現代語訳:都を去ろうとしている)
「急ぎ去らんとす」
(現代語訳:急いで去ろうとしている)
この表現の特徴:
– 直近の未来における意志
– 行動の準備段階を示す
– より具体的な意志表現
補足として、「去らんとす」は以下のような場面でよく使用されます:
1. 物語の転換点
「主人公が都を去らんとする場面」
2. 決意の表明
「いざ、去らんとす」
3. 切迫した状況
「夜も明けぬうちに去らんとす」
この形式は特に物語文学において、登場人物の行動の起点を示す重要な役割を果たします。その解釈は、物語全体の展開を理解する上で重要な鍵となることがあります。
【3.「去るらん」の詳しい用法と具体例】
「去るらん」は「去らん」とは異なる独自の用法を持つ表現です。原因や状況からの推測を表す際に使用される重要な助動詞です。
【推量の「去るらん」】
「去るらん」の推量は、状況証拠や外部情報に基づく推測を表します。
例文:
「雲間に月隠れて、影も去るらん」
(現代語訳:雲の間に月が隠れて、その影も消えているだろう)
「今頃は都を去るらん」
(現代語訳:今頃は都を去っているだろう)
この用法の特徴:
– 現在の状況に基づく推測
– 既に進行中の事態への推量
– 客観的な状況証拠の存在
【原因推量の「去るらん」】
原因推量は、ある事象の理由や原因を推測する際に使用されます。
具体例:
「心の迷いに堪えかねて去るらん」
(現代語訳:心の迷いに耐えられなくて去ったのだろう)
「恋しさのあまりに去るらん」
(現代語訳:恋しさのあまりに去ったのだろう)
この用法の特徴:
– 原因と結果の関係性を示す
– 心情や感情との結びつき
– 理由の推測を含む
【伝聞の「去るらん」】
伝聞用法は、他者から得た情報を伝える際に使用されます。
例文:
「人の言には、すでに去るらん」
(現代語訳:人の話では、すでに去ったそうだ)
「噂によれば、遠く去るらん」
(現代語訳:噂によると、遠くへ去ったとのことだ)
この用法の特徴:
– 情報源の存在を示唆
– 確実性の度合いが低い
– 間接的な情報伝達
【「去るらんこと」の意味と使い方】
「去るらんこと」は、推量や伝聞の意味を名詞化した表現です。
用例:
「去るらんことを嘆く」
(現代語訳:去っていくであろうことを嘆く)
「去るらんことを思えば」
(現代語訳:去っていくだろうことを思えば)
この表現の使用場面:
1. 感情表現との結びつき
2. 仮定条件での使用
3. 物語の展開予測
【4. 古典文学における「去らん」「去るらん」の実例】
古典文学作品から具体的な用例を学ぶことで、これらの表現の実際の使われ方を理解しましょう。
【和歌における使用例】
和歌では、限られた音数の中で繊細な感情を表現するため、「去らん」「去るらん」の使い分けが重要です。
『古今和歌集』の例:
「春来れば散るらむ花を惜しみつつ今日も暮れにし我が身なりけり」
(現代語訳:春が来れば散っていくだろう花を惜しみながら、今日も暮れてしまった私であった)
『新古今和歌集』の例:
「明日よりは都を去らん旅の空心細くもあるかな」
(現代語訳:明日からは都を去ろうとする旅路の空、なんと心細いことよ)
【物語文学における使用例】
物語文学では、登場人物の心情や状況描写に使用されます。
『源氏物語』の例:
「いつしか去らんと思ふ心の迷ひぬる」
(現代語訳:いつか去ろうと思う心が迷ってしまった)
『竹取物語』の例:
「月の都へ去るらんかぐや姫を思ひて」
(現代語訳:月の都へ去っていくであろうかぐや姫を思って)
【随筆における使用例】
随筆では、作者の思索や観察が描かれます。
『枕草子』の例:
「春は曙、光うつくしく去らんとす」
(現代語訳:春の曙は、美しい光が消えていこうとしている)
『徒然草』の例:
「世を去るらん人を見送りて」
(現代語訳:世を去っていく人を見送って)
これらの実例から見える特徴:
1. 和歌での用法:
– 情景描写と心情の融合
– 韻律との調和
– 余情を持たせる効果
2. 物語での用法:
– 心理描写の深化
– 場面展開の予告
– 登場人物の意志表現
3. 随筆での用法:
– 観察的な描写
– 哲学的な思索
– 日常的な感慨
【5. 現代語訳のコツと練習問題】
古文における「去らん」「去るらん」を現代語に訳す際のポイントと実践的な問題を解説します。
【「去らん」の現代語訳のポイント】
「去らん」を現代語訳する基本的な対応:
推量の場合:
– 「〜だろう」
– 「〜と思われる」
– 「〜かもしれない」
意志の場合:
– 「〜しよう」
– 「〜するつもりだ」
– 「〜することにする」
例文と訳出:
1. 「明日去らん」→「明日去ろう」
2. 「いつか去らん」→「いつか去るだろう」
3. 「去らんとす」→「去ろうとしている」
【「去るらん」の現代語訳のポイント】
「去るらん」の基本的な訳出方法:
推量の場合:
– 「〜しているだろう」
– 「〜したのだろう」
– 「〜していることだろう」
原因推量の場合:
– 「〜したために違いない」
– 「〜したからだろう」
– 「〜ゆえのことだろう」
【実践問題と解説】
問題1:
「花の色も香も去らんとす」
訳例:「花の色も香りも消えようとしている」
解説:意志を表す「去らん」に「とす」が付いた形で、変化の直前を表現
問題2:
「かくて去るらん君を思ひて」
訳例:「このように去っているだろうあなたを思って」
解説:推量の「去るらん」で、現在の状況を推測
問題3:
「悲しみに堪へずして去らん」
訳例:「悲しみに耐えられずに去ろう」
解説:意志を表す「去らん」で、話者の決意を示す
【6. まとめ:「去らん」「去るらん」の使い分けポイント】
古文における「去らん」「去るらん」の違いを整理します。
主な違いのポイント:
1. 「去らん」の特徴
– 話者の直接的な意志表現
– 未来への推量
– 勧誘の意味を含む
2. 「去るらん」の特徴
– 状況からの推測
– 原因の推量
– 伝聞表現
実際の使用場面での判断基準:
意志を表現する場合→「去らん」
「今日こそは去らん」
状況を推測する場合→「去るらん」
「すでに去るらん」
覚えておくべき文法的な特徴:
1. 「去らん」
– 未然形+む
– 主に意志・推量
2. 「去るらん」
– 連体形+らむ
– 主に推量・伝聞
この違いを理解することは、古典文学の正確な解釈において重要です。文脈に応じて適切な解釈を選択することで、作品の深い理解が可能になります。
なお、実際の古文問題に取り組む際は、前後の文脈を十分に確認し、登場人物の心情や場面の状況を考慮に入れることが大切です。